I リッツ線の特徴:構成パラメータによる特性への影響
リッツ線の特性は電気的、機械的、熱的、化学的な特徴と特性によって決められます。熱的、化学的な要求は絶縁材料の選択により満足させることが出来る一方、電気的、機械的な特性はリッツ線の構成によるところが大きくなります。
次の表はリッツ線において最も重要な電気的、機械的な特性に対する、それぞれの構成パラメータの影響の全体像を示します。
リッツ線の構成パラーメタと一般的なその特性への影響
| 構成パラメータ | ||||||||
導体材料 |
標準直径
|
単線の直径と数
| 撚り数、ステップ数 | 撚りピッチ SL | 撚り方向 SR | エナメル皮膜厚み | |||
リッツ線 | 電気的 | リッツ線導体総断面積 wire conductor AConductor ,litz; 直流抵抗 RDC | X | X | X | ||||
高周波抵抗値 RAC RF損失 | X | X | X | X | |||||
電流密度 J= I/Aconductor,litz | X | X | |||||||
率 Aconductor,litz/Atot,litz | X | X | X | X | X | ||||
| 絶縁破壊電圧 UBDV | X | ||||||||
機械的 (Aconductor,litz = const.) | 外径Litze; リッツ線断面積 Atot,litz | X | X | X | X | X | X | X | |
| 寸法安定性 | X | X | X | X | X | ||||
| 柔軟性 | X | X | X | X | |||||
| 屈曲寿命 | X | X | X | X | |||||
| 最大引張り強度 | X | ||||||||
| 表面構造、荒さ | X | X | X | X | X | ||||
表 1
一つのリッツ線の特性が複数の構成パラメータの影響を受ける一方 一つのパラメータの変更が様々なリッツ線の特性に影響を与えることも明らかです。
次の表は高周波コイル関連に絞ったものです。
高周波コイルに影響を与える主な構成パラメータ
| 構成パラメータ | ||||||
ØSW | 単線の数 nSW | 撚りピッチ SL | (撚りステップ毎) SR | ||||
リッツ線の特性
| 電気的 | 総断面積 AConductor,Litz; 直流抵抗値 RDC | X | X | |||
高周波での抵抗値 RAC; RF損失 | X | X | X | ||||
| 機械的 | リッツ線外径 ODLitz; リッツ線総断面積 Atot,Litz | X | X | X | X | X | |
| 柔軟性 | X | X | X | X | |||
表2
それぞれの用途においては頻繁に、複数の要求が相反する場合もありますが、エレクトリゾーラとお客様の間で検討を重ね解決します。お客様の要求する製品のパフォーマンス、生産性、コスト面においてエレクトリゾーラのリッツ線の設計におけるノウハウが活かされます。
II単線の径の選択
単線径は、高周波特性に直接的影響を与えるものであるため、その正しい選択はリッツ線を設計する上で最も大切な要素の一つであり(参照RAC/RDC-Ratio). 更に機械的特性にも影響を及ぼします。
(表2参照)
単線の直径と主要な使用周波数と表皮深さの関係を表に示す。(近似値は表参照)
一般的に:
周波数が高い場合は小さい単線径となります。表皮深さδの撚り束ODBundleの相互作用を考慮すると、最大単線径はδ の3分の1以下であるべきです。
ØED ≤ δ/3
例: f = 200 kHz, δ ≈ 0,172 mm, ØED ≈ 0,063 mm;
同等のリッツ線総断面積の場合のリッツ線の機械的なパフォーマンスへの影響は:
単線の径がより小さい場合
- より柔軟で軟らかいリッツ線
- 最小曲げ半径がより小さく
- 屈曲寿命の特性が良く
- リッツ線外径を大きく
- リッツ線の充填率は低くなる
- 単線のコストは高くなる
III撚り方の選択
単線の数が用途において決定されている場合、特定の撚り構造が選択されます。少ない単線数(一般には<60本)は一度のステップで撚られ、より太く複雑なリッツ線の場合は複数のステップで撚られます。
撚り構造は撚りピッチSLと撚り方向SR、拠り束の数、ステップ数により決められます。それらのパラメータの適切な選択は、電気的、機械的または製造プロセスに関わる特性を確保するために必要です。
撚り束の数と撚りステップ数
断面積に占める銅の割合や電気抵抗、電流密度といった値によって必要な単線数は決められますが、撚り束の数や撚りステップ数の組み合わせは複数考えられます。それらの要素について考えると、最初の撚りステップの束は高周波特性が最適化された設計となり、また1束の単線数は通常60本以下となります。
最後の撚りステップではベーシックな4つのタイプがある:3,4,5束の同心円型や7束による構成である。
![]() | ![]() | |
| "5 束構成 " | "7 束構成 " |
3,4,5 束構成
これらの構成はリッツ線断面において統計的に均等な単線の配置ができます。高い製造性を有しており、高周波特性の最適化に適しています。束数が多い方がより束が円の形状に近くなることから、5束による構成が最も好まれます。
7 束構成
この構成は”1+6束構成”とも呼ばれ、高い柔軟性と寸法、形状安定性を持ちます。1つの束が真ん中に配置されることから最高の高周波特性を得るにはあまり適しません。真ん中の束は束の長さの違いを補うため、撚り方向が回りの束とは逆方向となっています。真ん中の束の撚り方向は最後の撚りステップの撚り方向を示すことになります。
以上のベーシックな構成は、ステップ数と、電気、機械的要求に応じてそれぞれを組み合わせることが可能であり、独自の構成も可能です。
撚りピッチと撚り方向の選択:
撚りピッチは、リッツ線のコンパクトさと束の高周波特性を決定します。束の締まりは“撚りファクター”VFと呼ばれ、撚りピッチSLと束の外径に依存します。標準的なVFの値は15-20です。
“撚りファクター” VF = SL/ODBundle
例: VF = 5,0mm / 0,3mm = 16,7
撚り方向SRによっては事前ステップの“撚りファクター”VFは高く設定される場合が多い。
撚りピッチSLと撚り方向SRの選択には次のようなことが考慮されます。
- より短い撚りピッチ
- よりコンパクトで頑丈、構造寸法の安定性
- 束の外径が大きくなる
- 最適な高周波特性が要求される場合、全てのステップにて撚り方向をそろえた最適な撚り方が選択される。
- 複雑構造の用途で高い柔軟性を要求される場合、ステップごとに逆方向の撚り方向になるものが好まれる。
- 撚りピッチはコイルの最小巻き直径内に入るようにするべきである。
異なる構成のリッツ線270 x 0,071 mm
| リッツ線 | 構成 | SR | SL [mm] | 撚りファクター VF | 特徴 |
|---|---|---|---|---|---|
| 270 x 0,071 mm | (54 x 0,071 mm) x 3 | S,S | 20;26 | ≈ 15 | 良好な高周波特性、荒い感触の3面リッツ線 |
| ((30 x 0,071 mm) x 3) x 3 | S,S,S | 20;26;26 | ≈ 20 | 良好な高周波特性、コンパクトな撚り | |
| ((18 x 0,071 mm) x 3) x 5 | S,S,S | 20;26;26 | ≈ 20 | 良好な高周波特性、コンパクトなリッツ線 | |
| ((18 x 0,071 mm) x 3) x 5 | S,S,Z | 20;20;26 | ≈ 15 | 細いリッツ線構造 | |
| (39 x 0,071 mm) x 7; concen. | S+Z,S | 20+20;24 | < 13 | 丸く、寸法、形状が安定している。柔軟性高い |
表3
IV 例: 高周波多層巻きのリッツ線
多くの場合、高周波コイルは少ない巻き数での多層巻きです。通常それらのリッツ線で、正確な層(レイヤー)を形成するためには、テンションがかかりコイルに巻かれても丸い形状を維持することが必要とされることから、シルクかナイロンの繊維巻きが用いられます。また繊維巻きではない、通常のリッツ線も使用されることもあります。その場合は頑丈で寸法の安定したリッツ線を選択することが必要です。しかしながら多少の楕円形への変形は避けることが出来ず、この場合はリッツ線外径を適切に小さくする補正をしなければなりません。このため同じリッツ線外径であれば繊維巻きのリッツ線は、繊維巻きではないものより大きい銅断面積を持ちます。
例
この例では、使用周波数200 kHz で30回巻きつける場合のシンプルなリッツ線構成の選択方法を示します。
巻きつけるボビンの大きさは次のように想定します。幅 x 高さ = 25,8 mm x 8,0 mm.
レイヤーの構成
巻き付け技術によっては、一定または異なる巻き付け回数にてレイヤーを形成します。
単純計算により求めると、1層当たり10回巻きの3層でボビンに巻きつける場合、リッツ線の外径は25,8 mm/10 = 2,58 mmとなります。
単線の径
使用周波数が高くなると単線の径は小さくなり、同時に単線のコストは単線外径ØSWが減少したこととリッツ線構成の複雑化により上昇します。構成束同士の相互作用と周波数に依存する表皮深さδから求めるØSW ≤ δ/3は単線の径の選択の見積もりとして利用されます。実際問題として、用途や要求仕様に応じて高周波特性とコストのどちらかを妥協しなければならない。この例ではØSW = 0,063 mmが最初の段階としては十分です。
撚り構成
リッツ線の外径は、巻き線時のそれぞれの束の寸法安定性にも依存します。この経験値を考慮すると、計算値の最大リッツ線径(Ø2,58 mm)は繊維巻きであれば10%(Ø2,32 mm)ない場合は15-20% (Ø2,19 mm)に減少させるべきです。繊維巻きではないものは、コンパクトに撚らなければいけません。よって撚りピッチが短く、束同士の撚り方向が同じなら5または4束構成が好まれます。
下の表は周波数が50, 125, 200 kHz.のコイルに適した、繊維巻き有無のリッツ線構成の 比較を示します。
高周波コイル用のリッツ線 巻き幅: b x h = 25,8 mm x 8,0 mm
| 経験に基づく値 | ||||
| 周波数 [kHz] | 50 | 125 | 200 | |
| 巻き数 Nw,tot | 30 | 30 | 30 | |
| レイヤー数 NL | 3 | 3 | 3 | |
| レイヤー毎の巻き数 NW,L | 10 | 10 | 10 | |
(grade 1) ODLitz [mm] | 繊維無 | 2,19 | 2,19 | 2,2 |
| 繊維有 | 2,32 | 2,32 | 2,32 | |
ØED [mm] | 0,100 | 0,080 | 0,063 | |
FillLitz [%] | 繊維無 | 48,2 | 46,5 | 46,1 |
| 繊維有 | 47,0 | 45,4 | 44,9 | |
window FillWin [%] | 繊維無 | 25,9 | 25,6 | 24,9 |
| 繊維有 | 29,1 | 28,0 | 27,2 | |
リッツ線構成 | 繊維無 | 225 x 0,100 mm 5x(45x0,100mm) | 350 x 0,080 mm 5x(5x(14x0,080mm) | 550 x 0,063 mm 5x(5x(22x0,063mm)) |
| 繊維有 | 225 x 0,100 mm 5x(51x0,100mm) | 350 x 0,080 mm 5x(4x(19x0,080mm)) | 600 x 0,063 mm 5x(5x(24x0,063mm)) | |
表 4
これらを参考にすると
- 繊維巻きリッツ線の銅の充填率は繊維巻きではないリッツ線に比べて少し小さい。繊維巻きでないリッツ線の単線の数とリッツ線銅断面積は増加する。
- 銅の巻き付け充填率は25-30%で、銅断面積が大きいことから繊維巻きの方が通常のリッツ線に比べて高い。
- 5束構成は単線数が60本よりかなり少ない場合において、より対称な構成となる。
多層巻きが必要でなく、ランダムで良い場合はとても柔軟性がありソフトなリッツ線を作ることが可能です。その場合、リッツ線がお互いにくっつきギャップ間は埋められ、コイルの充填率を高くすることができます。またその代わりに角型リッツ線を使うことも可能です。銅の充填率はその用途の電流容量に応じて選択しなければいけません。
V 比較:線選択Charles R. Sullivan方式
これはアメリカ、ダートマスThayer School of Engineering のCharles R. Sullivan によって "Simplified Design Method for Litz Wire". にて提唱された高周波コイルのリッツ線選択方法です。
ここで使用されるパラメータは表皮深さ、使用周波数、巻き数、巻き枠幅と定数Kです。これらから単線の外径、最初ステップの束を構成する最大単線数、その後のステップの束の数など適切なリッツ線の構成を導き出します。
次のように導き出されます:
(1):
抵抗値ρ、使用周波数f浸透性µoから計算される表皮深さ δ を決定します。
δ = √(ρ/(π*f*µo))
(2):
与えられた巻き枠の有効幅b と必要巻き数NW,totを決定します。オプションとしてギャップも考慮することができます。
(3):
表の推奨単線総数ne を計算します。有効な単線径に対する単線数は計算値から最大で± 25%の誤差が出ることがあります。
ne = k*δ2*b/NW,tot
(4):
単線径及びその数を選択します。ここでは巻き数から巻き枠にフィットする単線径と数の組み合わせを決定します。巻き枠の銅充填率を25-30%と想定します。リッツ線の抵抗値と電流容量に関する要求は決められていなければいけません。大きいサイズの単線への変更も可能です。
(5):
表皮深さと束の径の相互作用を考慮します。最初のステップの束の最大単線数n1,maxの計算は、周波数の影響を受ける表皮深さδと選択される単線の径ØSWに依存します。
n1,max = 4*δ2/ ØSW2
(6):
(3)で計算した単線の総数を3または4、5の束数それぞれに応じて分配します。
推奨される撚り方向や撚りピッチは無く、製造者の判断に任せられます。
表5は上に示したエレクトリゾーラの経験に基づく構成とCh. R. Sullivanの計算に基づく構成を比較したものです。多層巻き、25,8 mm x 8 mmの巻き枠、50, 125, 200 kHzの使用周波数とした場合の構成です。
巻き枠b x h 25,8 mm x 8,0 mmで異なる求め方での比較
| エレクトリゾーラの経験に基づく値 | Ch. R. Sullivanの計算に基づく値 | ||||||
| 周波数 [kHz] | 50 | 125 | 200 | 50 | 125 | 200 | |
| 巻き数 NW,tot | 30 | 30 | 30 | 30 | 30 | 30 | |
| レイヤー数 NL (多層巻き) | 3 | 3 | 3 | 3 | 3 | 3 | |
| レイヤー毎の巻き数 NW,L | 10 | 10 | 10 | 10 | 10 | 10 | |
(grade 1) ODLitz [mm] | 2,19 | 2,19 | 2,20 | 1,90 | 1,67 | 1,79 | |
ØSW [mm] | 0,100 | 0,080 | 0,063 | 0,100 | 0,063 | 0,050 | |
FillLitz [%] | 48,2 | 46,5 | 46,1 | 47 | 44,8 | 44,6 | |
巻き枠充填率 FillWin [%] | 25,9 | 25,6 | 24,9 | 19,4 | 17,2 | 16,4 | |
| リッツ線構成 | 225 x 0,100 mm 5x(45x0,100 mm) | 360 x 0,080 mm 5x(4x(18x0,080 mm)) | 550 x 0,063 mm 5x(5x(22x0,063 mm)) | 170 x 0,100 mm 5x(35x0,100 mm) | 375 x 0,063 mm 5x(5x(15x0,063 mm)) | 575 x 0,050 mm 5x(5x(23x0,050 mm)) | |
表 5
この表はエレクトリゾーラの経験に基づき選択されたリッツ線の構成がSullivan の方法により求めらた値に近いことを示しています。次のようにエレクトリゾーラのリッツ線の特徴はSullivan の方法から求められる値に含まれています。:
- 経験値の単線の総数はSullivan の方法により求められるレンジ内に入る。
- 3,4,5束を組み合わせた構成はエレクトリゾーラの通常のリッツ線設計に含まれる。(表5参照)
- 最初のステップの単線はそれぞれの束が独立していて、エレクトリゾーラでは単線数60本以内であれば選択可能。
- 大きい単線(ØED ≤ δ/3)の構成に変えること(表5参照)でコストの削減が可能。Sullivan の方法では推奨される最初のステップの束の単線数は64 から 36本である。
- コスト削減以外にも、それらの構成はリッツ線自体や巻き枠における充填率を向上させることもできる。
- 撚りピッチと撚り方向を注意深く選択することで、各用途への最適化が可能。
このことから、 エレクトリゾーラの高周波リッツ線の設計は経験と理論両方に基づくものであると言えます。
略語
AConductor,Litz | = | リッツ線導体断面積 |
| Ages,Litz | = | リッツ線断面積 |
| ODLitz | = | リッツ線の外径 |
| ODBundle | = | 束の外径 |
| nsw | = | 単線の数 |
| Øsw | = | 単線の外径 |
| VF | = | 撚りファクター |
| SL | = | 撚りピッチ |
| SR | = | 撚り方向 |
| RDC | = | DC 抵抗 |
| RAC | = | AC 抵抗 |
| f | = | 周波数 |
| ρ | = | 導体の固有抵抗値 |
| µO | = | ギャップの透過性 |
| δ | = | 表皮深さ |
| J | = | 電流密度 |
| UBDV | = | 絶縁破壊電圧 |
| b | = | 巻き枠幅 |
| h | = | 巻き枠高さ |
| NW,tot | = | 巻き数 |
| NL | = | 巻きレイヤー数 |
| NW,L | = | レイヤー毎の巻き数 |
| FillLitz | = | リッツ線の銅充填率 |
| FillWin | = | 巻き枠充填率 |
| ne | = | 推奨単線数 |
| n1,max | = | ステップ目の束の単線数 |
| k | = | Ch. R. Sullivanの定数 |

